実際には3羽しか飛んでいなかった小鳥を、デジタルの後処理で20羽に増やす・・・こんなことがまったくチョイチョイチョイとできる時代になりました。
このこと自体を、ボクは、将棋・囲碁でいう「禁じ手」とは思いません。
どういう構図に切り取り、とういう瞬間にシャッター下ろすか、その時点ですでに、私たちは「したいようにする」ことをしているわけですもの。
なるべくならそうしたくない、やりすぎはいけない、また、やったことを白状すべきでない、など、いろんな思いは交錯しますが、ブログという気安さで、つい書きたくなりまして。
下の「
寒がらす」は、1964年の日本カメラ月例1位で口絵を飾った作品で、もうご迷惑がかかることはないでしょうから、自分の宝物の思い出として、ここに初めて書きますが、あの川上緑桜さん(当時は川上緑郎)と太田安昭さんと3人で、大阪・富田林の雪の中を走り回って撮った原版に、当時はデジタルなんてありませんから、スクリーンに投影したスライド画像を重ねたりいろいろやって、鳥の数を「増やした」ものでした。ポンカメも、この作品に言及した他のカメラ雑誌(当時は他誌のコンテストも話題にしていましたね)も、このことに気づいていませんでした。
「日本カメラ」1964年1月号所載(月例第1位)
(今井 寿恵 評) 風景写真でドラマのある作品は少ないものですが、これはヒチコックばりの鋭さと冷たさを色フィルターを効果的に用いながらうまくとらえています。偶然を自分のものにして写すということは、対象が大きいだけに成功しにくいものですが、場所といい、時といい、また適当な表現手段といい、よくそろったものだといえましょう。これは小手先でつくる造形性よりもっと強い意味を作っています。なんでもない風景が、こうやって倉谷さんの世界になってしまった写真の魔術を、私は楽しく感じました。なんべん見てもあきさせない良さがこの写真にはあります。
「フォトコンテスト」1964年2月号、カメラ雑誌月例コンテスト見立て:1月号各誌総合ベスト10
1位:「夕暮の名神高速道路」町田昇太郎(カメラ芸術)
2位:「寒がらす」倉谷直臣(日本カメラ)
3位:「ショー」太田安昭(カメラ毎日)
4位:「トラ」北口清保(カメラ毎日)
「寒がらす」は単純な構成が深い色とマッチして、一度見ると忘れがたいようなイメージをあたえる作品だ。しかもこれは確かに写真の手応えをもってうまれており、絵になりさがっていないからうれしい。
なつかしく思い出すのは、上のリストの2,3,4位が、すべて地懐社メンバーであったことです!